AI利活用の成否を分けるデータ整備の現状
学習データを整備して活用している企業は、7.0%
企業の現場において生成AIや各種AIツールの導入が進む一方で、その基盤となるデータの整備状況には大きな課題が残されています。IPAが2026年7月に公表した「DX動向2026」によると、AI利活用に向けた学習データの整備状況について、「整備しておりAIに活用している」と回答した企業の割合はわずか7.0%にとどまっています。
さらに同調査では、「整備しているが十分ではない」と回答した企業が28.4%、「必要性は認識しているができていない」とした企業が27.6%を占めています。多くの組織がAI活用の重要性を理解しながらも、データ整備の初期段階や不十分な状態で足踏みしているのが現実です。
データを整備した企業が得られている成果
一方で、前述のIPA「DX動向2026」(2026年7月公表)によれば、学習データを適切に整備し、実際にAIへ利活用している企業のほとんどは、期待と同等かそれ以上のAIの効果を得られているという結果が出ています。
IPAの調査は、データ整備と効果の間に関係があることを示していますが、整備したから効果が出たという因果関係までは示していません。それでも、システムを導入する前に、社内にあるデータをAIが扱える状態に整えておくことは、有力な備えと考えられます。なお、IPAの調査が対象とするのは「学習データ」ですが、本記事ではこの考え方を、プロジェクトでAIに渡す資料(議事録、課題票、計画書など)にも当てはめて考えます。
PMI調査から読み解くプロジェクト業務とデータの制約
データ分析業務における生成AIの重要性と非構造化データ
プロジェクトマネジメントの領域においても、生成AIの活用が急速に模索されています。PMIが2024年に発行した調査レポート「Pushing the Limits: Transforming Project Management With GenAI Innovation」によると、生成AIを使うプロジェクトマネジメント業務において、「データ分析(データの収集・抽出・整理、傾向やパターンの把握)」が、業務への影響と利用度の両面で上位に挙がっています。
このデータ分析業務において生成AIの効果を大きくしている要因として、大規模言語モデル(LLM)がプロジェクト文書のような非構造化データを直接処理できる点が挙げられます。これまでは人が読み込んで手作業で集約していた議事録や計画書などのテキスト情報を、AIを活用して迅速に分析・活用できる環境が整いつつあります。
AI活用の障壁となるデータの制約とガバナンス
しかし、プロジェクト現場で生成AIをスムーズに導入・運用できるケースばかりではありません。前述のPMI「Pushing the Limits: Transforming Project Management With GenAI Innovation」(2024年)では、生成AIを十分に活用できていない障壁として、以下の5点が挙げられています。
- タスクの複雑さ
- 活用方法の不明確さ
- ガバナンスの不備
- データの制約
- 研修の不足
なお、PMIが2026年に発行した「AIの標準」も、AIの原則の一つに**「データ品質」**を挙げています。データの制約は、プロジェクト業務でAIを使う際に、見落とせない論点といえます。
導入前に必ず点検したい「データ整備チェックリスト」
プロジェクトでAIに渡す資料(議事録、課題票、計画書など)も重要な「データ」として扱い、AIを使う前に、所在・品質・権限の3つのポイントを点検することをおすすめします。以下の点検項目は、調査の数値から導いたものではなく、当社の考え方です。
点検のポイント1:プロジェクト文書の所在を明確にする
AIを活用する際、まず直面する課題が「必要なデータがどこにあるか分からない」という状態です。
- 過去のプロジェクト計画書や議事録が、個人のローカルPCやバラバラのチャットツールに散在していないか確認する。
- 組織内で参照すべきプロジェクト文書の保管場所(リポジトリ)が統一されているか棚卸しを行う。
- 検索性が担保された状態で、必要なドキュメントにすぐアクセスできる状態を作っているか確認する。
点検のポイント2:AIに耐えうるデータ品質を担保する
AIに渡すデータの品質は、出力の質に影響します。PMIの「AIの標準」(2026年発行)も、原則の一つに「データ品質」を挙げています。
- 議事録に決定事項やアクションアイテムが網羅されており、文脈が第三者(またはAI)にも理解できるか点検する。
- 課題票や進捗報告において、用語の揺れや曖昧な表現、古い情報が放置されていないか確認する。
- 同じ内容について、文書ごとに矛盾した記述が含まれていないかを精査する。
点検のポイント3:適切なアクセス権限を管理する
プロジェクト文書には、機密情報、顧客情報、未公開の経営計画などが含まれるため、AI利用におけるガバナンスとセキュリティの担保が欠かせません。
- AIに読み込ませるデータ範囲に対し、適切なアクセス権限(誰がその情報を閲覧・利用してよいか)が設定されているか確認する。
- 部署横断でAIツールを導入する際、閲覧制限がかかっているべき機密文書が学習データや参照データに混ざっていないか点検する。
- 情報漏洩やコンプライアンス上のリスクを防ぐため、社内規定に基づいたデータ活用のガードレールが機能しているか見直す。
プロジェクト文書の所在整理、品質の担保、そして厳格な権限管理という3つの視点をあらかじめ点検することで、AI活用の効果を引き出しやすくなります。まずは自社のプロジェクト現場にある文書資産の実態を把握し、小さなスコープからデータ整備の取り組みを始めてみてください。
出典
- IPA「DX動向2026」報告書(2026年7月公表): https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-2026.pdf
- PMI「Pushing the Limits: Transforming Project Management With GenAI Innovation」(2024年): https://www.pmi.org/learning/thought-leadership/transforming-project-management-with-generative-ai